温泉に塩素はなぜ入っていることが多い?消毒の理由・濃度基準・肌荒れやくしゃみの原因を解説

温泉・銭湯
温泉に塩素はなぜ入っていることが多い?消毒の理由・濃度基準・肌荒れやくしゃみの原因を解説

はじめに

こんにちは!!
ひなたの湯です!!
今回はなかなか攻めたテーマですが「塩素」についてコラムを書きました。

「温泉に行ったのに、プールみたいな塩素のにおいがした」「温泉に塩素なんて入れる必要あるの?」――温泉好きの方ほど、こうした疑問や違和感を持ったことがあるかもしれません。

実は、現代の温泉施設の多くでは、お湯に塩素系の消毒剤が使われています。そして、これは決して「手抜き」や「成分のごまかし」のためではなく、利用者の安全を守るために法律で求められている衛生管理の一環です。

この記事では、温泉に塩素が入っている理由、その濃度の基準、効能との関係、そしてよく相談を受ける「肌荒れ」や「くしゃみ」の本当の原因まで、わかりやすく解説します。

なぜ温泉に塩素を入れるのか?最大の理由は「レジオネラ症の予防」

温泉のお湯に塩素を加える最大の目的は、レジオネラ属菌による感染症(レジオネラ症)の予防です。

レジオネラ属菌は土壌や河川などの自然環境に広く存在する細菌で、20〜45℃程度の温水を好み、循環式浴槽の配管やろ過装置の内部に発生する「生物膜(バイオフィルム)」を温床にして増殖します。感染すると重い肺炎を引き起こすこともあり、過去には温泉施設での集団感染で死者が出たケースも報告されています。

この菌は人から人へは感染しませんが、ジェットバスや打たせ湯などで発生するエアロゾル(細かな水しぶき)を吸い込むことで感染リスクが高まります。循環式の浴槽を使う多くの温泉施設では、塩素系薬剤による継続的な消毒が必要になっています。

温泉の塩素濃度はどれくらい?厚生労働省が定める基準

温泉施設の浴槽水の塩素濃度は、施設が自由に決めているわけではありません。厚生労働省の「公衆浴場における衛生等管理要領」などにより、明確な目安が示されています。

浴槽水の遊離残留塩素濃度の基準

一般的な基準値は、次のとおりです。

  • 通常時の濃度:おおむね 0.2〜0.4 mg/L
  • 最大濃度の目安1.0 mg/L程度まで

「mg/L」は「1リットルあたりのミリグラム数」を表す単位で、「ppm(百万分率)」と同じ意味で使われます。0.4 mg/L = 0.4 ppm です。

参考までに、私たちが日常的に飲む水道水も塩素消毒されていて、水道水の遊離残留塩素は0.1 mg/L以上に保つことが定められています。つまり、温泉のお湯の塩素濃度は、水道水とそれほど大きく変わらない水準で管理されているのです。

温泉では「やや高め」に設定されることもある

温泉のお湯は成分によって塩素消毒の効果が弱まることがあるため、施設によっては0.5〜1.0 mg/L程度のやや高めの濃度を維持しているケースもあります。これは「塩素を多く入れたい」のではなく、「成分との反応で効果が落ちる分を補って、確実に殺菌力を確保するため」です。

施設の管理者は、毎日複数回にわたって浴槽水の塩素濃度を測定し、記録を残すことが義務づけられています。

ひなたの湯でも毎時間塩素測定を実施し、測定と調節を行い、記録も残しています。

温泉の塩素は効能に影響する?

「塩素を入れたら、温泉の効能はなくなるのでは?」と疑問に思う方も多いかもしれません。

結論としては、通常の消毒濃度の塩素では、温泉成分のほとんどは大きく損なわれません。温泉の効能を決めるのは、お湯に溶け込んでいるさまざまなミネラル成分や泉質ですが、これらは0.4〜1.0 mg/L程度の塩素濃度では基本的に大きく変質しないと考えられています。

ただし、いくつか例外はあります。

  • 鉄分やマンガンを多く含む泉質:塩素と反応して酸化し、お湯の色が変わったり、湯の華が出やすくなることがあります
  • 強い酸性泉:低いpHでは塩素ガスが発生しやすくなるため、塩素消毒が向きません
  • 硫黄泉:硫化水素と塩素が反応して、本来の硫黄成分が損なわれる場合があります

こうした「塩素消毒と相性が悪い泉質」では、オゾン殺菌や紫外線殺菌、モノクロラミンによる消毒といった代替の方法が使われています。「源泉かけ流し」を売りにする温泉施設の多くは、新鮮なお湯を絶えず入れ替えることで衛生を保ち、塩素を使わない(あるいは最小限にする)運用をしています。

肌荒れ・くしゃみの原因は「塩素」ではなく「クロラミン」

「温泉に入ると肌がピリピリする」「脱衣所に入ったとたん、くしゃみが止まらなくなる」――こうしたトラブルを「塩素のせい」だと思っている方は多いのですが、実は犯人は塩素そのものではありません。本当の原因は、塩素から生まれる「クロラミン(結合塩素)」という別の物質です。

クロラミンとは何か

塩素(次亜塩素酸ナトリウムなど)は、水中のアンモニア成分と反応すると「クロラミン」という化合物に変化します。クロラミンには、モノクロラミン・ジクロラミン・トリクロラミンの3種類があり、特にトリクロラミンが強い刺激臭と粘膜・皮膚への刺激を引き起こすことで知られています。

水中のアンモニア成分はどこから来るかというと、入浴者の汗・皮脂・尿・化粧品の残りなどです。これらが浴槽内に持ち込まれると、塩素と反応してクロラミンが発生してしまうのです。

「あの塩素臭」と「ピリピリ」の正体

プールや脱衣所で感じる、いわゆる「塩素のにおい」――あれは、塩素そのもののにおいではなく、ほとんどがトリクロラミンのにおいです。塩素が強く効いている状態ではなく、むしろ「汚れと塩素が反応して、副産物が増えている」状態を示しています。

このクロラミンが、目や鼻、喉を刺激してくしゃみを引き起こし、肌のバリアにダメージを与えて肌荒れの原因になります。つまり、「温泉のにおいが強い=塩素が濃い」ではなく、「温泉のにおいが強い=汚れと塩素の反応が進んでいる」というのが、より正確な理解です。

利用者ができる工夫:「かけ湯」と「体を洗う」が一番の対策

クロラミンの発生を抑える最も効果的な方法は、入浴前にしっかり体を洗い、汗や皮脂を落としてから湯船に入ることです。

「かけ湯だけして入る」「サウナの後に体を流さず湯船に直行する」――こうした行動は、浴槽水にアンモニア成分を持ち込み、クロラミンを増やす原因になります。マナーとしてだけでなく、自分や他の利用者の肌・喉を守るためにも、入浴前の身体洗浄は重要なのです。

その他、敏感肌の方が気になる場合は、

  • 長湯を避ける(10〜15分程度を目安に)
  • 入浴後に真水のシャワーで体を流す
  • 保湿クリームでケアをする

といった対策で、刺激を和らげることができます。

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まとめ:塩素は「敵」ではなく「安全のための仕組み」

最後に、温泉と塩素についての要点を整理します。

  • 塩素消毒の目的は、レジオネラ症などの感染症予防。利用者の安全のために必要
  • 濃度の基準は、通常0.2〜0.4 mg/L、最大1.0 mg/L程度(厚生労働省指針)
  • 温泉の効能は、通常の消毒濃度ではほぼ損なわれない。泉質によっては代替消毒法も使われる
  • 肌荒れ・くしゃみ・塩素臭の原因は、塩素そのものではなくクロラミン。汗や皮脂と塩素が反応してできる
  • 対策の基本は、入浴前にしっかり体を洗うこと。利用者のマナーが、お湯の質を守る

「塩素が入っている温泉は本物じゃない」と思われがちですが、現実には、安心して大勢の人が温泉文化を楽しめるための大切な仕組みです。正しい知識を持って、心地よい湯あみのひとときをお楽しみください。

参考文献

塩素消毒の法的基準・公衆浴場の衛生管理

  • 厚生労働省「公衆浴場における衛生等管理要領」(平成12年12月15日生衛発第1811号、令和元年9月19日付け生食発0919第8号通知により改正)
    https://www.mhlw.go.jp/topics/2001/0111/tp1106-1.html
  • 厚生労働省「循環式浴槽におけるレジオネラ症防止対策マニュアル」(浴槽水の遊離残留塩素濃度0.2〜0.4 mg/L、最大1.0 mg/Lの根拠/塩素系薬剤の注入方法/温泉成分との反応に関する記述あり)
    https://www.mhlw.go.jp/topics/2001/0109/tp0911-1.html
  • 厚生労働省「公衆浴場における水質基準等に関する指針」(健衛発0331第7号、平成27年3月31日付け)

自治体の運用例(基準値の改正・最新状況)

クロラミン(結合塩素)と刺激・においのメカニズム